大浦家日記~11月号~

「長女」

 十月二十八日。

大浦家に待望の長女が誕生しました。

トミさん(仮名)は九十歳とは思えないほど元気で、

負けん気の強いパワフルな女性。

大分でひとり暮らしをしていた彼女は、

彼女の身を案じる息子さんの再三の想いを受け入れ、

去年北九州へやってきました。

これで家族みんなが安心して穏やかな暮らしをおくれる。はずでした。

しかし急激な環境の変化は、

家族の関係を良いものにはしませんでした。

慣れない環境、生活スタイルの違い、

老いに伴うものわすれ。

様々な要因によってお互いの心をすり減らすようになりました。

息子さん夫婦がトミさんの事を思ってやったことが、

トミさんにとっては猜疑心を抱く行為と映り、

喧嘩をする事が増えていきました。

一度芽生えた猜疑心は、冷静に見れば善意と受け取る行動も

形を変えてその目に映し、栄養にしてしまいます。

払拭しようと頑張れば頑張るほど

意に反して成長してしまう悪循環に陥り、息子さん夫婦、トミさん、

共に精神的にも肉体的にも疲れ果てていました。

このままでは共倒れになってしまう。

息子さん夫婦は悩みぬいて、トミさんと別々に暮らす決断をします。

せめてトミさんが楽しく生活できる場所をと忙しい時間を縫って様々な施設を見学し探しました。

そんな時に出会ったのが大浦家。

見学に来られたお二人の話しの端々に、トミさんの事を想う愛情、

うまくいかないもどかしさ、嫌がるであろうトミさんを、

本当に施設に入れていいのかという不安、どうしていいかわからないという困惑があふれていました。

そんな中で、施設のような雰囲気のない普通の家の大浦家を見て頂き、

そしてコンセプトである、出来ない事は手助けがある環境の上で、

調理をしたり、買い物に行ったり、掃除をする事が出来ると云う、

普通の生活の素晴らしさを説明させて頂きました。そして、

大浦家への入居を決心頂きました。

後は私が、大浦家に託された

ご家族の想いを実現する為、精一杯関わるのみ。

ご家族には、大浦家での生活が落ち着くまでは、トミさんに怒られ、

罵倒され、敵視されるので、精神的に辛い時期になりますが、

一緒にがんばりましょうと話し、入居の日を迎えました。

見学するだけのつもりで来たトミさん。気付いたらご家族がいない。

当然の如く激高。

親になんて仕打ちをするんだ!

明日迎えにくるから、今日は泊まっていくように言っても、元々負けん気の強い彼女は聞きません。

それじゃあ向こうの思う壺になる!

今日中に家に戻らな意味が無い!

あんたが送ってくれんなら近所に

駆け込んで、警察を呼んで家まで送ってもらう!

と、一歩も引きません。

長くなるので割愛させて頂きますが、

結果、トミさんは入居する事を受け入れてくれました。

(※詳細が知りたい方はあきひこまで。)

次の日には、必要な物を取りに戻りたいと、一緒に自宅に戻り、

自分で荷造り。

そのまた次の日には、得意料理の団子汁を作ってくれました。

そのまた次の日には、離れているのでもう行けないからと、

今まで通っていたデイサービスに菓子折りを持って挨拶に行きました。

ところが、デイサービスの方が、

「トミさんが来んくなったら寂しいから、これからもおいで♪」と、

優しく温かい言葉。

回数は減りますが、引き続きデイサービスに通える事に。

当然、ご家族への怒りの言葉は事あるごとに聞かれますが、

まだ始まったばかり。

ご家族には、怒られ、喧嘩になるかもしれないけど、会いに来てもらうようにお願いしています。

疎遠になっては意味が無い。

ただ楽しいだけの生活を送る住処なんておかしい。

きっと、人間らしい生活とは、

喜怒哀楽様々な感情が生まれる中、人と関わっていく事で、

人と人、そして家族の絆を強くしていく。

そんな生活なのではないでしょうか。

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