大浦家・上津役家日記~R1.8月号~

「 ちびっこ介護士 」 

弊社はスタッフの子連れ出勤を 推奨しています。 
その為、現在小さな子供のいる上津役家スタッフは、
機会のある度に子供を上津役家に連れてきてくれます。
上津役家家族の皆はとても喜び、いつにも増して賑やかになります。
その度に、お年寄りと子供の居る 環境ってやっぱりいいなぁと思います。
これは何も、お年寄りの為だけに 子供の居る環境がいいと言っている
わけではなく、子供にとっても、お年寄りと過ごす事は
とてもいい事だと感じるのです。
例えば、調理スタッフの子供で、 現在小学2年生になる女の子がいます。
この子は比較的よく遊びに来てくれるのですが、
始めの頃は人見知りし、中々皆に寄り付きませんでした。
しかし、うちの家族はそんな事は おかまいなし。
その子が人見知りして距離を取ろうとしても気にせず、
ガンガン詰め 寄り、人見知りする隙を与えません。
結果、今では皆と仲良しになりました。
上津役家には認知症の方、全盲の方、身体が不自由な方等、
誰もが何かしらの支援を必要とする人しかいません。
その為、始めは自分が遊びたいばっかりのこの女の子が、
いつしか自然と上津役家家族の為に、
お手伝いをする風景が見られる様になりました。
色々な事に気付き、思いやりも見られる様にもなりました。
このちびっこ介護士は思いの外優秀で、自分が皆に好かれ、
可愛がられている事を十二分に活かし、日々の業務の力になってくれます。
例えば、誰かがお風呂に入りたがらない時、ちびっこ介護士が一言。
「お風呂に入って綺麗になって きてね。」 この一言で、
『わかった、それじゃあ入って くるね。』 と、すんなり・・・。
今迄頑張って説得していたスタッフの立場がありません。
悔しい事ではありますが、私達スタッフから見ると、
子供は自分達の今までの努力や経験で培ってきた能力さえも
一瞬で飛び越えてしまう。
しかもお年寄りの方は、自分が面倒を見ている、
可愛がっている、 わがままやお願いを聞いてあげている。
そういう感覚なので、自分が迷惑や手間を取らせているなどという、
介護を受ける方特有の罪悪感の様なものをお年寄りが持つ事もないので、
見ていて本当に自然。
子供は正に無敵の介護者なのです。
これから、この子供とお年寄りが 一緒の空間で過ごす事が
当たり前になっていく環境作りを、出来る限り創って行きたいと思います。
それが実現するまで、とりあえず
このちびっこ介護士に存分に力を振るってもらいたいと思います。

「 人を想う力 」

これはあくまで私見ですが、
私は、この世界の動物は皆すべからく
自身の欲求を満たす為に生きている。
そう思っています。
欲求や欲望と聞くと、なんだか悪いものの様なイメージを持つ方も
いるかもしれませんが、この欲求が命の根源にあるからこそ、
多種多様な命の営みがあるのだと思います。
少し話が大きくなりすぎたので、人間の欲求の話しにしたいと思い ます。
一口に自身の欲求を満たすと言っても様々あり、
人によって違いますが、大きく分けると欲求は5段階に分けられます。
①生理的欲求と呼ばれる食欲、性欲、睡眠欲などの三大欲求。
②健康に暮らしたいなどの安全欲求。
③同じ趣味の仲間が欲しい、友達が欲しいなどの社会的欲求。
④他人から認められたいと思う 承認欲求。
⑤理想の自分を追い求める 自己実現欲求。
先程言った通り、欲求は全て自身のものですが、
私はこの5段階とは別に次の2種類に分ける事も出来ると思います。
自分の欲求だけを満たすものか、
他人を助け他人の欲求をも満たすものか。
どうせ欲求を満たすのであれば、
後者の方が他人も幸せにする可能性があるので、
こちらの欲求の方が 私は好きです。
それに、こちらの方が自分自身を 強くしてくれるような気がします。
ちょっと堅苦しくなってしまったので、分かりやすく説明しましょう。
この欲求はざっくり言うと、
『おもいやり』や『使命感』です。
『誰かに何かをしてあげたい』又は、
『誰かの為に自分がこうあらねば』と、思う心です。
例えば、上津役家のタカさんとフジさんは同じ時期に体験入居し、
同じ時期に上津役家へ入居して、同じ居室で寝食をともにしています。
2人とも認知症がありますが、
タカさんは比較的軽度で記憶障害の症状が主なのに対し、
フジさんは記憶障害だけでなく、見当識障害、失認、失行と症状が進んでいます。
なので、着替えひとつとっても、どうしていいかわかりません。
つまり、何をするにも支援が必要な状態という事です。
それでもフジさんはいつもニコニコと素敵な笑顔をみんなに振りまき、
タカさんもそんなフジさんが大好き。
だからタカさんはいつもフジさんの世話をしています。
トイレの場所や部屋の場所を教えたり、着替えの手伝いをしたり。
いつも仲良く一緒にいる2人を見ていると、まるで本当の姉妹の様です。
認知症は進行性の病気です。
タカさんと関わっていると、やはり、入居当初と比べ、
分からない事や記憶障害が少し進んできていると感じる事があります。
しかし、不思議な事にフジさんの面倒を見ている時のタカさんは、
それが嘘の様にしっかりしているのです。
おそらくタカさんの心の中には、
「自分がしっかりして、フジさんの面倒をみてあげなきゃ。」
という使命感の様なものがあるよう な気がします。
そして、その使命感がタカさんの認知症の進行を
少なからず食い止め ているのではないでしょうか。
私には、そんな風に思えて仕方ありません。
人の欲求には際限がありません。
でも、だからこそ、通常では考えられない様な事も
可能にする力があるのかもしれません。

「 本心 」

スミさんは野花を愛する、 とても心優しい方です。
が、一見するとぶっきらぼうで、愛想がない様な感じがします。
ただ、それは耳が聞こえない事が原因の多くを占めているだけで、
普段はとても素敵な笑顔で笑います。
ご家族が面会に来た時の彼女は、気を遣う必要がなかったり、
甘えが出る為か、ぶっきらぼうにご家族と接しているような印象があります。
なので、ご家族に直接お話しをしているかはわかりませんが、
実は彼女は、子供に対して申し訳ない事をしたという、
自責の念をいつも心に秘めています。
ある日、スタッフと買い物に出かけた際に、
ふと彼女は家族に対しての想いを吐露しました。
『私の旦那は、昔は炭鉱で働いて いて、よく働く真面目で良い 人だった・・。
でも、炭鉱が閉山され戸畑に働きに出る様になってから変わってしまった・・。
賭け事にハマってしまい、悪い時には2週間も家に帰って来ない事もあった・・・。
私は子供もいるし、このままじゃいけないと思い、
旦那を捕まえては何度も話し合った。
このままの状態だったら一緒に暮らして行く事は出来ないと、何度も訴えた。
それでも旦那は賭け事を止める事は無く、変わる事もなかった。
何度も別れようとしたけど、その度に、強く引き留める旦那に押し切られ、
結局別れる事が出来ず、子供にはずっとつらい思いをさせてしまった。
子供には本当に悪い事をした・・。』
そう、涙を浮かべながら話してくれました。
私達は、私達よりも長く生き、その中で楽しい事、嬉しい事、
悲しい事、辛い事、様々な人生経験を積み重ねた方々と関わっています。
普段の何気ない関りから知る事が出来るその人の事など、
ほんのごく一部の事なのかもしれません。
家族の絆はとても強いものです。
私達スタッフが取って代われるものではありません。
しかし、家族だからこそ素直に言えない事もあります。
相手が他人だからこそ、素直な気持ちを言える事もきっとあるのです。
家族にしか出来ない事。
家族にしか話さない事。
私達スタッフにしか出来ない事。
私達スタッフにしか話さない事。
それ以外の方にしか出来ない事。
それ以外の方にしか話さない事。
相手はそんなに重要ではなく、そういう相手が居る事。
それを話せる相手や場所がある事。
そういう環境がある。それこそが一番大切な事なのだと 思います。
誰にも何も出来ない。 誰にも話せない。
そんな孤独で独りぼっちの世界にならない様に。
今日もそれぞれが、それぞれに出来る範囲で彼や彼女と関わり、
彼や彼女の事を想い、そんな環境を創っていきます。
彼や彼女の『本心』を見失わないように。